文部科学省 科学研究費補助金 学術変革領域研究(B) 令和3年~5年

素粒子現象から巨大構造物までを透視する
マルチスケールミューオンイメージングの創成

領域概要

研究概要

高い透過力を持つ素粒子ミューオンを用いて、アトメートル(10-18 m)からキロメートル(103
m)に及ぶ幅広い物質や物体とそれらの内部を可視化する「マルチスケールミューオンイメージング:MSMI」の確立を目指します。MSMIは、様々な学問分野で切望されてきた現象などの可視化を可能とするため、様々な基礎研究の発展から社会的な課題の解決にわたり幅広い貢献が期待できる(下図)。申請者らは、ヒッグス粒子の発見、クフ王ピラミッドの新空間の発見などの革新的な研究業績を挙げている。本研究では、これらの業績を確固たる基盤とし、①ガス検出器による新しい素粒子現象の発見(計画研究A01)、②原子核乾板によるピラミッド・火山内部の世界初の三次元可視化の達成(計画研究A02)を目指す。また、MSMIを用い、③従来は不可能だった堤防内部とそこでの水分布を可視化して世界初の科学的な堤防の安全管理手法を構築する(計画研究A03)。さらに、④ミューオン加速技術の探究により、持ち運び可能なミューオン加速器であらゆる物体を透視する基盤を作る(計画研究A04)。

計画研究

 

MSMIの実現は、従来は独自に発展してきた異分野に位置付けられる理学や工学の学問分野の融合が唯一の手段となる。本研究の実施により新たな研究領域の創成が期待できる。また、本研究を通した学問分野の融合は、元来からの学問分野の俯瞰を可能とし、各学問分野の飛躍的な発展も同時に期待できる。MSMIは、物理学、考古学、地球惑星科学、工学、数理科学など、幅広い学問分野にパラダイムシフトをもたらすほどの多大な波及が期待できる。具体的には、富士山などの巨大活火山の観測や、気候変動の顕在化と厳しい国家財政のために重大な社会問題となってきている社会インフラ(橋梁、ダム、トンネルなど)の老朽化調査の実現などが挙げられる。
宇宙から降り注ぐ放射線に起因するミューオン(宇宙線ミューオン)は、地表に1平方メートルあたり毎分1万個降り注ぐ。その透過確率は通過する物質の密度と距離の積に依存するため、宇宙線ミューオンを用いて物体の内部構造を測定できる。一方、加速器により発生させる素粒子反応は、終状態に生成されるミューオンを用いて精査でき、ヒッグス粒子の精密測定など素粒子物理学の重要課題に挑むことができる。

総括班概要

総括班は、本領域を構成する計画研究間のバランスをとりながら、研究の最新の進展状況を把握し、各研究の方向付けや計画研究間の技術的な連携の提案を行う。
融合による新しい研究の開拓のために、総括班が主導して融合研究課題を設定し、研究の進捗の把握や調整を行う。融合研究課題として、以下を想定している。
  • エネルギーと精密測定の最前線の融合による素粒子像の探求(計画研究A01, A04)
  • ガス検出器を用いたリアルタイム火山透視システムの設計(計画研究A01, A02)
  • ミューオン加速器と原子核乾板によるハイブリッドミューオンイメージングの検討(計画研究A02, A03, A04)

融合研究課題の状況や技術開発の進展を考慮しながら、さらなる融合の可能性や可視化対象拡張の可能性を追求し、学術変革領域研究(A)での研究につながる新たな芽を生む。
毎月、総括班会議をひらき、最新の研究成果の共有・相互の情報交換を積極的に行う。
成果をまとめ、計画研究を支える情報交換を目的に、1、2年度目に、研究会を開催する。本
領域の研究成果を報告し議論するために、最終年度に、国際会議を開催する。研究代表者が
プログラム策定などの全体の企画を行い、研究分担者がホームページ作成や広報活動などを
行う。研究活動・成果を社会に発信するためにホームページを作りアウトリーチ活動を行う。